面白きこともなき世を考えて

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牛丼値下げを発表した吉野家の本当の「敵」

たまには真面目なことを書く。

ちょっと前にBLOGOSで牛丼大手、吉野家の値下げについて記事が出ていました。

吉野家 牛肉輸入解禁で新価格280円「早い うまい 安い」復権へ (1/2)(BLOGOS編集部) - BLOGOS(ブロゴス)

内容は牛丼の値下げを発表した記者会見における、吉野家社長のプレゼンテーションと記者との質疑応答をまとめたものです。

これを読んでいて、話の中心である値下げ自体は正直個人的にはどうでもいいのですが、牛丼一位への復権を狙う吉野家の戦略的な意気込みを感じました。


牛丼一位はとっくにすき家

今や当たり前の話かもしれませんが、実は牛丼チェーンにおける売上高を比較すると吉野家は一位ではありません。

10年前くらいの感覚からすると正直にわかには信じがたいのですが、今はすき家が牛丼業界のトップを走っています。

昨今のテレビCMの露出量を見ると納得かもしれませんが。

節目となったのは上記記事にある米国産牛肉のBSE問題。

輸入禁止となり松屋と一緒に豚丼でなんとか時間を稼ごうとするも、「豚丼はおいしくない」ということで徐々に顧客離れが起こります。

そんなときに台頭してきたのが、牛丼の味よりもメニューの豊富さを武器にしたすき家です。

もともと吉野家は圧倒的な牛丼としての「うまさ」で他チェーンの追撃を振り切ってきたわけですが、豚丼、それに続く未成熟牛肉を使用した牛丼の時代により、味による差別化ができなくなってしまいました。

そこに、味が似たようなものなら飽きずにいろいろなバリエーションが楽しめたほうがいいよね、ということですき家が一気にシェアを獲得しました。


敵は過去の自分

そんななか、牛丼王座の奪回を狙う元王者、吉野家の値下げ宣言です。

値下げはさておき、私としては吉野家、安部社長の以下の発言に注目しました。

需要と供給のバランスが崩れまして、極めて高い価格帯の相場が形成され、売価が380円になってしまった。結果的に、「うまい」「やすい」という2つの価値要素が2003年以前の牛丼にはいたらなかった。結果として販売量を維持できなかったという事情がありました。そして一昨年、旨さの原点のため、商品、サービスの検証と修正を推進。ベストコンディションの2001年頃の牛丼の味を模索するプロジェクトを開始した。

そう。目指したのは「すき家よりおいしく」、ではなく「ベストコンディションの2001年頃の牛丼の味」なのです。

この発言に代表されるように、今回の記事の中で競合他社を意識した発言はほとんど出ていません。

これは自分たちの戦略、ビジョン、アイデンティティというものをよく理解していることの表れだと思います。

自分たちのやってきたことが本来の状態に戻れば、絶対にまた消費者に支持してもらえるという自信が垣間見えます。

この自信には、昭和の日本企業がいまだに持っている「あのころは良かった」というノスタルジー、懐古主義とは一段違った強い思いを感じます。


吉野家からにじみ出る元王者の風格

戦略においては、「誰を敵とするか」というのは非常に重要なファクターです。

いわゆる競争戦略というと、他社との差別化、違いを生み出すことが基本になってきますので、とかく競合他社を意識しすぎてしまうことがあります。

Webサービスや家電製品なんかでも、差別化だ差別化だといって競合を意識し過ぎたあまりに、なぜか競合とまったく同じ商品ばかりが生み出されてしまう、という笑えない事例が多くあります。

自分たちは誰と競合しているのか、誰と戦ってどう勝つのか、ということを考えるのは一見正しいですし、自分も仕事柄つねに意識していることですが、吉野家の戦略発表からは勝ち方はそれだけではないということを教えられます。

吉野家の、過去の自分たちを取り戻そうとする戦略は、いわば「誰とどう戦っても勝つ」という元王者としての王道の戦略と言えます。

ベストだった2001年ころの安さ、早さ、うまさを取り戻すことができればだれにも負けない、というわけです。



いやー、しびれますね、吉野家さん。かっこいい。

単なる競合他社の価格に合わせた形での値下げでないところに、筋の通った戦略を感じます。

これはうかうかしてるとあっという間にすき家との逆転があり得る気がします。

今後の吉野家さんの活躍に期待します。

まあ、自分はあの忙しない感じが嫌いなので、めったに牛丼食べませんが。

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